終章<誓いは永遠に>

四月

憂鬱な春休みを終えた一樹が学校に向かっていた。
今日は聖エオリア学園の入学式である。
あれから毎日ちこりの事を考えながら過ごした。
あまりの唐突な出来事に時には泣き出しそうになる日もあった。
それでもどこかできっと帰ってくると信じ続けてどうにか短いようで長い春休みを終えた。
入学式の途中で担任の名前が次々と呼ばれたが一樹のクラスにはまた美智子先生が担任になるようだった。
式が終わると生徒達が一斉に掲示板の前に集まる。
クラス分けの表を見るためだった。
一樹はそんな気にはなれず自分のクラスの自分の席に腰掛けていた。
聖エオリア学園は入学式は出席番号順に席が振られている。
順番にすると最前列最も左が男子一番順に後ろに進み、左から二列目を女子一番と言う感じである。
一樹は自分の席に着くと思いっきり机に突っ伏した。

「げっ。な〜んで3年になってまであんたと一緒なのよ〜」
懐かしい声が聞こえてきた。
一樹が視線を声のほうに移すと一人の女生徒が思いっきり項垂れていた。
声の主は許婚の一人であった向坂つぼみだった。

「最悪…」

「げっ!なんでここにいんだよ、おまえ」

「なんでって…ここの制服が可愛かったからよ。あんたのためなんかじゃないんだから!」

「そんな事誰も言ってねーだろ…」

「フンッ。それより夫婦生活は…どうなのよ」
つぼみは一樹の横の席に腰掛けながら言った。

「どうもこうもお前には関係ない」

「〜〜〜〜っ!ムカツク〜。ま、あんたのその姿見ればおのずと解るけどね」

「……」

「とにかく頑張んなさいよ…」
最後にそれだけ言うとつぼみは自分の席に戻っていった。
次々と生徒達が教室に入ってくる。
その中に花梨の姿もあった。
花梨はつぼみを見つけるとぱたぱたと駆け寄り早速話しに花を咲かせていた。
美智子先生が入ってくる。
出席簿を取り終えて簡単な話しをしていると突然ドアが開いた。
ガラララララララッ。
すると小さな騎士達が赤い絨毯を広げていく。

「あれって…」
一樹が振り返ってつぼみと花梨を見た。
二人とも一樹の視線に頷きで応える。
案の定、制服を少し改造した服を着て彼女は入って来た。

「おはようじゃ。皆の衆」
パステーテだった。
リッター達が大急ぎで一樹の前にパステーテの席を作る。

「うむ!」
満足そうに頷いてパステーテは優雅に歩き出した。
席に着く途中にパステーテは一樹を見つけた。

「おぉ!お主もこのクラスかえ?奇遇じゃのう。わらわと同じ学び舎で学べる事を誇りに思うのじゃな。ともあれ、一年の間よろしく頼むぞ」
さんざんに言うとパステーテも席に着いた。
美智子先生が話を続けた。
内容は他愛も無い毎年聞いてきた様な語句だった。
それが終わると皆思い思いに帰り支度を始めていた。
花梨とつぼみはお馴染みの”花梨と愉快な仲間達”と共に何やら催し物の話をしていた。
パステーテはさっさとリッターと共に教室から出ていた。
一樹は屋上に向かって歩き出していた。
屋上の扉を開けると太陽の光と共に一つの影が目に飛び込んできた。

「天国さんか…」
宙は一樹の方を向いたがすぐに瞳をそらしてしまった。

「一年て早いよね。俺ももう3年だし、天国さんも2年でしょ?一年前に結婚話で何かやってたなんてもう思い出でしかないもんね。新しい後輩も入って来たし」
宙に色々話してもまともな答えが返ってこないのは一樹にも解っていた。
ただ、今日は約一年ぶりに元許婚候補達全員と対面したためか懐かしさの余り良く喋ってしまう様である。

「…………そうね。……お告げ通り」
やはり宙はそれしか答えてくれなかった。
会話はほとんどなかった。
手すりに寄りかかり一樹は校庭を見渡していた。
宙は時折空を眺めたり、ブツブツ言って指を空に向けて立てたりしていた。

「最後の高校生活は…楽しくなりそうかな?」
誰に言うでもなく一樹は呟いた。
宙は相変わらず同じことを繰り返していた。
特別会話もなく数十分が過ぎた。
昼時になっていたが一樹は帰る気にはなれなかった。

「………………あ」
不意に宙が声をあげた。

「どうかしたの?」

「………………お告げ」

「どんなお告げ?」
ちこりを見かけた事件もあってか一樹は宙のお告げに関してすこし興味が湧いていた。

「詳しくは解らない…。ただ…私がここにいては駄目」

「そうなんだ…。行っちゃうの?」
その問いかけに宙はコクリと小さく頷くと何も言わず屋上から出て行ってしまった。
一樹も便乗して帰ろうかと思ったが宙が”駄目”と言っている気がしてまだその場から離れなかった。





それとほぼ同時刻。

二人の女生徒が掲示板の前に立っていた。

「あ…あ…あ…。………………あった!3のCだってさ、行こう」
快活そうな髪の短い女生徒が言う。
左側に紐で束ねた髪が印象的な女生徒。

「う…うん」
終始髪の短い女生徒の後ろに隠れるようにしている女生徒。
髪を二つにピョンと束ね、少し小さめの女生徒が自信なく答える。
二人は名前を見つけた3のCに向けて歩き出した。

「んもう、いい加減離れてよぉ。歩きにくいよぉ。」

「だ、だってぇ…。う〜。」
そんなやり取りをしてる内に3のCの教室の前に着いた。
快活そうな女生徒がトントンと教室の扉を叩く。

「ん?誰かしら?」
花梨が気付いて扉を開ける。

「あ、初めまして。あの、安芸津先輩いますか?」
快活そうな女生徒が尋ねる。
その間、小さな女生徒は更に快活そうな女生徒の後ろに隠れる。

「安芸津君?ちょっと待ってね」
そう言うと花梨はつぼみ達のもとに戻っていった。

「うわぁ、可愛い。可愛い人がいっぱいいるのねぇ、この学校」
快活そうな女生徒はからかう様に小さな女生徒を見つめた。

「う〜」
少しすると今度はつぼみが戻ってきた。

「あいつなら多分屋上とかに居るんじゃないかなぁ?もっとも見たわけじゃないけどね」
そう言うとつぼみはニッコリ微笑んだ。

「そうですか、わかりました。有難うございます、先輩」

「先輩だなんて…。ちょっとテレちゃうかも。またね」

「はい、失礼します」
快活そうな女生徒が頭を下げると、それにつられて小さな女生徒も頭を下げた。

「ふむ、安芸津もやるものだな」
京子が扉が閉まったのを見計らって喋りだす。

「手前の子は良く知らないけど、隠れてた子は見たことある気がするなぁ」
小首を傾げながらつぼみは言った。

「わたしは知ってるわよ。隠れてた子」
花梨は小さく微笑むと屋上の方を向いた。





屋上

一樹はまだ校庭を見つめていた。
校庭を見つめたかったわけでもない。
ただ考え事をするには目を瞑るより何かを見つめる方が一樹には効率が良かった。
とは言え明確な答えが出るはずも無かった。
全てが謎に包まれていたが自分の中でどうにか解決策を見つけようとしていた。
そんな中、屋上の扉が開いた。

「あ…」
快活そうな女生徒が小さく声をあげる。
目の前の男子生徒はまだ気付いていない様である。

「せ〜んぱい」
一樹は声を掛けられたが向き直らなかった。
自分に用のある後輩をしらなかったからだ。

「むっ!せんぱ〜い?」
無視されたと思い少しムッとしたが快活そうな女生徒は男子生徒を呼び直した。

「なに?」
一樹は素っ気無く答えた。
考え事を遮る声は今の一樹にとってはいささか邪魔だった。

「なにしてるんですか?」

「校庭みてるの」

「なにか考え事ですか?」

「そんな所」

「何を考えてるんですか?」

「言う必要が無いでしょ?」

「力になれるかも知れませんよ?」

「まさか」
しつこく食い下がる女生徒の声に一樹は苦笑した。
しかしこの女生徒に結婚している事を話したらどんな反応をするだろう。
そんな事を思いつつ一樹は冗談ぽく本当の事を言う事にした。

「聞きたい?」

「えぇ、是非」

「奥さんの事」
一樹は内心わくわくしていた。
しかしその思いとはウラハラに女生徒のトーンは変わらなかった。

「奥さんがどうかしたんですか?」
そう言うと女生徒は一樹に向かって静かに歩きだした。

「驚かないんだね」

「えぇ、私の友達にも似たようなのがいますから」

「そっか」
一樹がそう言い終える頃には女生徒は一樹の横に立っていた。
一樹と同じように手すりに寄りかかり校庭をみる。

「へぇ、ここの校庭って広いんですねぇ」

「そうなのかな?俺の前の学校と変わんないんだけど」

「そうなんですか。私の前の学校の校庭より全然大きいですよ」

「ふーん。それより、悩み事の続きを聞かせてください」
二人の後姿を小さな女性とは息を殺して見守っていた。
一樹はもう一人居る事に気付いていないのか、喋る声は小さな女生徒にも聞こえるほどのトーンだった。

「奥さんがね、出て行っちゃったの」

「あらら、何かしたんですか?」

「ん〜どうなんだろうね」

「ウフフッ。わからないんですか?」

「正直わかんないのが本音だったり…」

「面白いんですね、先輩」

「そう?」

「えぇ。それじゃあ、最後の質問しますね。これに答えたら解決策教えちゃいます」

「本当?どんな質問なんだろうね」
冗談交じりで一樹が聞く。

「奥さんの事、今でも愛してますか?」
以前にも同じような事を聞かれたことを一樹は思い出していた。
その質問の答えを二人の女生徒は待っていた。
一樹は校庭を見つめていた視線を目の前の空に移した。

「ははっ!何でみんな同じような事聞くんだろうなぁ?」

「えっ?」

「当たり前じゃない。どんな我が侭を言ったって、どんな無茶を言ったって結婚した女の子なんだ。愛してないわけないじゃない。」
なんの照れも無く一樹は言い切った。
その言葉に小さな女生徒の瞳には大粒の涙が溢れていた。

「なるほど、”病める時も健やかなる時も”ってやつですね」

「そうだね、どんな時も彼女の事を愛してるよ。今までも、そしてこれからもね」

「クスクス。解りました。じゃあ、解決してあげますね。おにいさん」

「よろしくね…って、おにいさんて何よ?」
一樹は苦笑しながら初めて隣に居る女生徒の顔を覗いた。

「え゛っ…」
一樹は飛び上がりそうな程驚いた。
今まで話していたのは記憶とは違う制服だったが女生徒は知り合いだった。

「1のA藤咲朋乃です!よろしくお願いします。3のC安芸津一樹先輩!」
朋乃はペコリとお辞儀をした。

「あ……と……とも……」

「さておにいさんの悩み事は既に、この朋乃が解決してますよ!」

「え?」

「後ろを見てくださいっ」
その言葉に一樹は屋上の扉に向き直った。
そこには、白と淡い緑の制服ではないピンクを主体にした制服を纏ったちこりの姿があった。

「ち…ちこり…」

「一樹…君…。うくっ、うっ…おにいいいいちゃあああああああああん!」
ちこりは一樹に抱きついた。
この3ヶ月間会いたくても自分に言い聞かせていた足枷をはずした。
本当は会いたかった。
誰よりも会いたかった。
一緒に食事したり、甘えたり、抱きしめられたり、キスしたり…。
何度も挫折した。
人一倍甘えん坊のちこりは何度も一樹に会いたくなった。
でもそれは出来ないと自分で決めた。
だから、泣いた。
朋乃の胸で、自宅のベッドで…。
何度も何度も泣いた。
そんなちこりを一樹も強く抱きしめた。

「ちこり…なんで聖エオリアに…」

「ちこり…ど…しても…おにいちゃんと、うっく…一緒のがっこーに…行きたかったのね…。だから…だからっ!」

「何で急に出て行ったんだよっ!」

「ちこり…勉強出来ないから…ここの試験受かるには…いっぱい勉強しなきゃいけなかったのね…だから…だから…」

「だから…俺と離れて勉強してたの?」

「おにいちゃんと一緒にいたら…ちこり…勉強しないの…。甘えちゃうの。でも…それじゃあ朋ちんが試験受からないって言うから…」

「じゃ、じゃあ。電話した時に一緒にいた人は…」

「家庭教師の人なの。たまたま、帰る途中に会ったのね。でも、でもなんにもないのっ!ほんとなのっ!ちこり、何にも…」

「ばかっ!」
そう言って一樹は更に強くちこりを抱きしめた。
”ばか”と言う言葉はちこりが気にしている無用な心配に向けられた物だとちこりは強く抱きしめられて気付いた。
そう思うとちこりはもっと泣きたくなって、甘えたくなった。

「うっ、うっく。おにいちゃぁん。ねぇ、ねぇっ」
その声に抱きしめていた一樹が顔をあげた。
一樹の瞳にもうっすらと涙が滲んでいるのがちこりにも見えていた。

「なに?」

「キス…キスして欲しいのっ!いっぱいいっぱいして欲しいの」
その言葉が終わるか終わらないかの内に一樹の唇でちこりの小さな口は塞がれていた。
小さく短いキスが終わる度にちこりは一樹の顔を引き戻して自ら唇を重ねた。
今までの分を取り戻すように何度も唇を重ねた。
一頻りキスをして少し落ち着いたのかちこりは一樹に抱かれて幸せそうな顔をしていた。
その顔は無邪気なちこりらしい幸せを絵に描いたような笑顔だった。

「あのぉ、ここにも一人居るんですけど?」
その声に一樹は驚いて顔をあげたが、ちこりは変わらなかった。
その姿を見て朋乃も肩の荷が降りたのか安堵の溜息をついた。

「実際大変だったんですよぉ、おにいさん。チーコったら全然勉強できなくって」
そう言って朋乃はからかうような視線をちこりに送った。
その言葉に流石にちこりも顔をあげた。

「ち…ちょっと朋ちん!」

「でも、頑張ったんですよ。ホント!”会えないのは今だけなの、寂しいけどちこり頑張るの!”って言って、ね?」
今度は朋乃がウインクする。
すると気まずそうにちこりは顔を赤らめた。

「追い込みのおかげで合格もしたし、これからはゆっくり過ごせるわね」

「うん!」
そう言ってちこりは一樹の腕を飛び出した。
そして涙を拭って深呼吸する。
小さく咳払いをして一樹の顔を見つめニッコリ微笑んで言った。

「1のA安芸津ちこりです。よろしくお願いします」
その姿に一樹も小さく笑うと同じように言った。

「3のC安芸津一樹です。よろしく」
そう言って二人は固く握手をした。




今後の一年間一樹にとって楽しく騒がしいだけでなく、ラブラブな年になる事は言うまでもなかった。






おまけ

一樹とちこりが抱き合っている中、屋上の扉から顔を覗かせている者達がいた。

「うっわ〜だいた〜ん」
顔をまっかにして呟くつぼみ。

「幸せそう、ちこりちゃん」
優しく見守る花梨。

「…………これで、いいの」
カッくんに言い聞かせる宙。

「なんじゃっ!その先には行かんのかっ!」
ちょっと方向の違うパステーテ。

「若さには勝てませんわ〜」
違う意味で泣いてる美智子先生。

いろんな意味で楽しい学園生活。
そして家に帰れば椎子とちこりと一緒の夫婦生活が始まるのである。
ちこりと結婚した以外は一年前と大差の無い生活が一樹には待っていた。

*****おわり*****

はい、長い間お付き合い頂きましてどうも有り難うでした。
あちきの文でははぴべるの良さは伝わらないかも知れませんが
いいゲームですよぉ。
ちこりがお勧めですけどw
ゲームの中ではちこりは●学生としか出ないんですけど勝手に●三年生にさせて頂きました…。
以前にも話したとおりやっぱり自作SSの良さは自分の書いた台詞を頭の中で
声優さんに読んでもらうのだと思うのですよ。
ですからやっぱり一度やって欲しいのですねw
あちきはもうウハウハ(死語?)ですよw
さてさて、次回は多分はぴべるのつぼみを題材に小説を作ると思いますので
その時はまたお付き合いくださいませ。

□■SS寄りへ■□